建築基準法12条点検は1種類じゃない——建築物・建築設備・防火設備・昇降機、4つの調査・検査と報告周期の違い
公開: |運営: ubusuna works
「12条点検、今年もお願いします」。この一言で発注が通ったつもりになっていた。ところが見積書が届くと、項目が四つに割れていて、うち二つは去年の書類に見当たらない。手違いだろうか。
手違いではない。建築基準法第12条という一つの条文番号のもとに、対象も周期も資格も違う制度が同居している。同じ番号で呼んでいるから一つに見えるだけだ。
1項と3項は、別の義務である
分かれ目は条文の項番号にある。
第12条第1項は、特定行政庁が指定した特定建築物の所有者・管理者に対して、敷地・構造・建築設備の状況を調査し、その結果を特定行政庁へ報告することを義務付けている。主語は建築物そのものだ。
第12条第3項は、昇降機や防火設備を含む「建築設備等」について、所有者に定期検査とその結果の報告を義務付けている。こちらは建物に据え付けられた設備が主語になる。
言葉づかいも違う。1項は「調査」、3項は「検査」。実務では両方まとめて点検と呼ぶが、報告書の様式も提出先の受付区分も別建てになっている。つまり、一方を出しただけでは他方の義務は残ったままだ。
6か月から3年、という幅の正体
周期を尋ねられて即答できないなら、それは正しい反応かもしれない。法律は年数を一律に定めていない。
建築物本体の定期調査について、建築基準法施行規則第5条は、報告時期を「おおむね6か月から3年までの間隔」で特定行政庁が定めるとしている。幅の中のどこに落ちるかは、建物の用途や規模ごとに各特定行政庁が決める。国が全国一律の年数を書いているわけではない。
建築設備等はもう少し込み入っている。施行規則第6条は、報告時期を「おおむね6か月から1年まで」の間隔で特定行政庁が定めるとし、ただし国土交通大臣が定める検査項目については1年から3年までとしている。設備側の基本は建築物側より短い区切りだと読める。
ここで一つ、はっきり言っておきたい。「うちは3年に一度だから」という記憶だけで動くのは危ない。3年は建築物本体の調査に許された上限側の話であって、同じ建物の設備検査がそれに合わせて動く保証はない。周期の根拠は、所在地の特定行政庁が公表している定期報告の対象・時期の一覧にしかない。
四つに割れているのは、告示が四つあるから
見積書が四項目に割れていた理由は、告示を見ると納得がいく。調査・検査の具体的な項目、方法、判定基準は、平成20年3月10日国土交通省告示に定められていて、番号が対象ごとに分かれている。
| 告示 | 対象 |
|---|---|
| 第282号 | 建築物 |
| 第283号 | 昇降機 |
| 第284号 | 遊戯施設 |
| 第285号 | 建築設備等 |
一つめの282号が、いわゆる建物の定期調査だ。敷地から外壁、避難施設までを見る。
二つめの283号は昇降機。エレベーターの保守契約とは別に、法定の検査と報告がある。保守点検を毎月受けているから大丈夫、という思い込みは、この項番の存在で崩れる。
三つめの284号は遊戯施設で、該当する建物は限られる。自分の物件に無関係だと確認できたなら、そこで手を離してよい。
四つめの285号が建築設備等で、換気設備、排煙設備といった設備群がここに入る。そして防火設備——防火扉や防火シャッターの動作を確かめる検査も、12条3項の系統に置かれている。日常の目視では閉まるかどうかまで確かめようがない部位だ。
誰が見るかも、選べない
設備会社に頼めば全部やってくれる、と考えたくなる。実際そう手配できる場合もある。ただ、報告書に名前を書ける人は法で絞られている。
施行規則第4条の20により、調査・検査を行えるのは一級建築士・二級建築士のほか、国土交通大臣が定める資格者に限られる。資格の名称自体が対象ごとに分かれていて、特殊建築物等調査資格者、建築設備検査資格者、昇降機検査資格者といった区分になっている。建築設備検査資格者が昇降機の検査報告を担うことはできない。
だから一社にまとめて発注する場合でも、確認すべきは「四つの対象それぞれに、対応する資格者を配置できるか」である。窓口が一つであることと、資格が揃っていることは別の話だ。
報告しないことの値段
報告を出さない、あるいは虚偽の報告をした場合、建築基準法第101条第2号により100万円以下の罰金が定められている。忘れていた、では済まない性質の義務だということになる。
もっとも、罰金の額よりも実務で効くのは別の側面だろう。防火設備が閉まらないまま数年が過ぎた建物で火災が起きたとき、報告を出していなかった事実は必ず問われる。検査は、書類を作るための儀式ではなく、閉まらない扉を見つけるための手続きだ。
冒頭の見積書に戻る
四項目に割れた見積書は、四つの告示に素直に対応していた。去年見当たらなかった二項目は、去年の周期に当たっていなかったか、そもそも報告漏れだったかのどちらかである。前者なら安心してよく、後者なら急ぐ話になる。見分けるには、所在地の特定行政庁が定める対象と時期を確認し、過去の報告控えと突き合わせるしかない。
条文の原文と制度の全体像は、国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000039.html )と関係条文の参考資料(https://www.mlit.go.jp/common/000042696.pdf )、条文そのものはe-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 )で確かめられる。
残る問題は、四つの対象を誰に振り分けるかだ。資格の区分ごとに対応できる業者を探すなら、点検ビトの業者データベース(/contractors)から地域と対象で絞り込める。