足場を組まずに済むと聞いてドローン調査を検討したのに、届いた見積書に「打診併用」の行が入っている。書き間違いではありません。国のガイドラインが、そう組み立てることを求めています。

12条点検の外壁調査とドローン赤外線調査ガイド

外壁の全面調査が必要になる時期

建築基準法12条1項の特定建築物定期調査には、タイル・石貼り・モルタル等で仕上げた外壁が、剥落によって歩行者等に危害を及ぼすおそれがないかを見る項目が含まれます。国土交通省は、この調査を原則として竣工後10年ごとに全面的なテストハンマーによる打診等で行うものと説明しています(平成20年国土交通省告示第282号、および平成30年5月23日付け国住防第1号 技術的助言。2026年8月確認)。

3年に一度の定期報告のたびに壁を全面的に叩くわけではありません。手の届く範囲の打診と目視で足りる回が続き、10年目にあたる回で全面調査が乗る、という周期の重なり方をします。見積額が前回と桁違いになるのはこの年です。対象建物かどうかの目安は点検義務チェック、報告の期限は法定点検の期限チェックで確認できます。

「打診等」の「等」に赤外線調査が入っている

告示が名指ししているのはテストハンマーによる打診です。ただし条文は「打診」と書かれており、この「等」に赤外線装置を用いた調査が含まれます。令和4年1月18日付けの改正(令和4年国土交通省告示第110号)で、無人航空機による赤外線調査であって、打診と同等以上の精度を有するものが調査方法として明確に位置付けられました。

法令が認めているのは機材ではなく精度です。ドローンという言葉は告示に出てきません。出てくるのは「同等以上の精度」という条件で、それをどう担保するかを定めたのが、同年3月に公表された「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」です。以下の要件・流れ・報告書の中身は、すべてこのガイドラインに書かれています。

ここが大事

「うちはドローンで撮れます」は、要件を満たす証明になりません。確かめるのは撮影機材ではなく、打診と同等以上の精度をどう確認するかです。その手順はガイドラインが決めているので、業者ごとに答えが変わる部分ではありません。

ドローンで撮れば、打診はしなくてよいのか

しなくてよくはなりません。ガイドラインは、本番の撮影に入る前に同じ部位を打診と赤外線の両方で調べ、赤外線で浮きを検出できているかを確認する手順を求めています。ここで検出が難しいと判断された部位は、測定条件を変えるか、打診に切り替えます。

つまりドローン調査とは「打診をゼロにする方法」ではなく、打診を部分に減らす方法です。効率が出るのは、足場やゴンドラを建物の全周に組む必要がなくなるところで、調査の手数そのものが消えるわけではありません。この構造を理解しないまま見積書を比べると、打診併用の行が入っている見積のほうが高く見え、実際には要件を満たしている側を落としてしまいます。

足場を組む調査との金額の開き方は外壁調査はドローンでいくらかかる?打診調査との費用比較で扱っています。

国土交通省の飛行許可は要るのか

都市部の建物では、まず要ると考えて差し支えありません。現場では「ドローンの認可」とひとまとめに呼ばれますが、航空法が定めているのは空域に対する「許可」飛行方法に対する「承認」の2つで、外壁調査では両方が要ることが珍しくありません。

航空法第132条の85は、無人航空機の飛行を禁止する空域として、空港等の周辺・緊急用務空域・地表または水面から150m以上の高さ・人口集中地区の上空の4つを定めています。ここで飛ばすには国土交通大臣の許可が必要です。

建物調査で効いてくるのは4番目です。人口集中地区は5年ごとの国勢調査の結果から設定される地域で、市街地のビル・マンションは大半がこれに含まれます。

さらに、航空法第132条の86は飛行の方法を定めており、夜間飛行・目視外飛行・人または物件と距離を確保できない飛行を行う場合は、許可とは別に承認が必要です。外壁の撮影は壁面にドローンを近づけて行うため、この承認が絡む前提で日程を組むことになります。

申請は国土交通省が飛行開始予定日の少なくとも10開庁日以上前(土日・祝日を除く)の提出を求めており、不備による差し戻しを見込んで3〜4週間の余裕をもって出すよう案内しています(2026年8月確認)。許可・承認の区分と申請時期の実務は外壁ドローン調査は「足場を組まない分だけ早い」とは限らないで詳しく書いています。

依頼してから報告書が出るまでに何が起きるか

ガイドラインは、ドローンによる赤外線調査を6つの段階で構成しています。見積書の内訳を読むときは、この段階のどこが含まれてどこが別料金かを見ることになります。

  1. 適用条件の把握と飛行可否の検討:天候・気温・風速、タイルの種類、撮影角度と離隔距離を確保できるか、建物高さや周辺の電波環境・障害物からドローンを安全に飛ばせるかを検討する
  2. 事前調査:予備調査に加えて現地調査を行うことが原則。日射の状況、撮影可能な時間帯、仕上げ材、近隣の状況、打診を併用する箇所を実地で確認し、飛行書類を作成・申請する
  3. 調査計画書・ドローン飛行計画書の作成:赤外線装置とドローンの仕様、調査する箇所と除外する箇所、安全管理、飛行許可・承認情報や加入保険まで書き込む
  4. 調査の実施:先に同一部位で打診と赤外線を実施して検出状況を確認したうえで、計画どおりに撮影する。ドローンはホバリングで静止させ、熱画像と可視画像を同時に撮る
  5. 熱画像による浮きの判定:反射などの外乱を取り除きながら分析する。撮影した熱画像はすべて保存する
  6. 報告書の作成:赤外線調査実施者の報告書とドローン飛行計画書をもとに、外壁調査実施者が外壁調査結果報告書をまとめ、一式を建物所有者へ渡す。特定行政庁に報告するのは所有者・管理者で、業者ではない

最後の一段は依頼側の作業として残ります。報告書が手元に届いた時点で終わりではないため、提出期限からの逆算が要ります。

依頼から報告書までどれくらいかかるか

日数を決めているのは足場の有無ではありません。効いてくるのは次の3つです。

  • 許可・承認の審査期間:申請は飛行開始予定日の10開庁日以上前が原則で、余裕をみれば3〜4週間。申請済みの空域・方法で飛べる業者と、これから申請する業者では、着手日が数週間ずれます
  • 現地に入る回数:ガイドラインが事前調査で現地調査を原則としているため、撮影日とは別に現地訪問が入ります
  • 天候待ち:浮きのある部分と健全な部分に温度差が出る日射条件でなければ判定の精度が落ちるため、撮影日をずらす判断が現場では日常的に起こります

足場を組む調査は、設置と解体に日数がかかる代わりに着工日をほぼ確定できます。ドローンは建物での作業自体が短い代わりに、着手までの日数が読みにくい。どちらが早く終わるかは、許可のリードタイムと天候待ちの発生確率で入れ替わります。工期の内訳をどう見積書に書かせるかはこちらのコラムで扱っています。

赤外線で調べられない壁がある

ガイドラインは、赤外線調査が一般に困難な箇所として軒裏・出隅・入隅を挙げています。日射が当たらない面、庇の裏、撮影角度と離隔距離を確保できない面も同じです。乾式工法によるタイル・石貼りは、そもそもこの調査項目の対象から外れます。

そのため「外壁全面をドローンで」という見積は、建物形状によっては成り立ちません。適用が難しい箇所が出た場合、代替方法を検討するのは外壁調査実施者の役割だとガイドラインは定めています。撮影できない面をどう処理するかが空欄のまま出てくる見積書は、この検討が終わっていない見積書です。

なお、有機系接着剤張り工法による外壁タイルについては、打診・赤外線とは別に引張接着試験による確認も認められています(平成30年5月23日付け国住防第1号)。施工記録で工法が確認できる建物では、選択肢が3つになります。

業者を選ぶときに見る4つのこと

ガイドラインは、ドローンによる赤外線調査を4つの役割で分担するものとして書いています。1社が全部を兼ねる必要はなく、実際には調査会社と飛行を担う事業者が組むことも多い。確認したいのは、この4つが誰の名前で埋まっているかです。

役割ガイドラインが求めるもの
外壁調査実施者調査全体を統括し、「著しい浮き」の有無を確認する。報告書には氏名・所持資格名(1級建築士、2級建築士、または特定建築物調査員)・資格者番号を記載する
赤外線調査実施者建築物と赤外線調査の十分な知識と、建築物調査等の実務経験を持つ者。熱画像の撮影・分析・浮きの判定に責任を負う
ドローン調査安全管理者建築物調査とドローン飛行の両方の知識を持ち、機体の管理・運用を統括する。飛行の中止判断もこの役割が行う
操縦者飛行技術に熟知した操縦経験を持つ者。建物規模に応じて補助者を置く体制を組む

見積比較で効くのは価格表の細かさではなく、この表のどこが空欄かです。撮影の値段だけが並んでいて資格者の欄が無い見積書は、報告書を書く人がまだ決まっていない見積書だと読めます。認められる要件をもう一段細かく見るなら12条点検の外壁調査はドローンでもOK?国土交通省の基準を解説へ。

業者の対応範囲はどこまでか

「ドローン外壁調査」と書かれたサービスの中身は、業者によって撮影までのところと、報告書の作成まで、さらに特定行政庁への報告書類の取りまとめまでと幅があります。見積書で切れ目を確かめておきたいのは4か所です。

  • 定期報告に使える調査報告書の作成まで含むか、撮影データの納品までか
  • 飛行の許可・承認の申請を業者側が行うか、賠償責任保険に加入しているか
  • 赤外線で判定できない部位が出たときの補完打診を自社で行うか、別業者の手配になるか。その場合の追加費用
  • 外壁調査以外の12条点検の項目(避難経路・防火区画など)まで一括で頼めるか

外壁だけを切り出して安く撮れても、同じ年に特定建築物定期調査の本体を別の業者に頼むなら、現地調査の日程調整は2回分になります。制度全体の対象と周期は特定建築物定期調査(12条点検)ガイドで整理しています。

点検業者の見つけ方

点検ビトの業者データベースでは、事業者ご本人の確認が取れた業者から「外壁調査」の対応業務タグが表示されます。エリアで絞り込んだうえで、上の4つの役割と対応範囲を各社に同じ言葉で聞くと、見積書の差が価格差なのか範囲差なのかを見分けられます。

よくある質問

検索で実際に打ち込まれている質問を、需要の多い順に並べています。答えは本文と同じ一次資料に基づいています。

国土交通省はドローンによる外壁調査を認めていますか?

認めています。令和4年1月18日付けの告示改正(令和4年国土交通省告示第110号)で、無人航空機による赤外線調査であって打診と同等以上の精度を有するものが、調査方法として明確に位置付けられました。ただし法令が認めているのは機材ではなく精度です。「ドローン」という語は告示に出てきません。出てくるのは「同等以上の精度」という条件で、その担保の仕方を定めたのが令和4年3月公表の「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」です。

ドローンで外壁調査はできますか?

できます。ただし2つの条件が別々にかかります。1つは建築基準法側の条件で、打診と同等以上の精度を確保できること(上記のガイドラインが撮影の条件・判定の方法・報告書の中身まで定めています)。もう1つは航空法側の条件で、飛ばす場所と飛ばし方によっては国土交通大臣の許可・承認が必要になります(航空法第132条の85・第132条の86)。片方だけ満たしても依頼はできません。

外壁調査の料金はいくらですか?

当サイトは金額のレンジを出していません。外壁調査に公的な価格統計が存在せず、出典のない数字を書かない方針だからです。分かっているのは、費用の差がどこで生まれるかです。足場を組むか、ロープアクセス(ブランコ)で降りるか、赤外線調査にするか。この選択が費用の桁を決めます。同じ棟でも、外壁だけを切り出して頼むのか、特定建築物定期調査の本体と一緒に頼むのかで、現地調査の回数が変わります。費用が何で積み上がるかは費用のページにまとめています。

ドローンの外壁調査に必要な資格は?

調査そのものを行い報告するのは、一級建築士もしくは二級建築士、または建築物調査員資格者証の交付を受けている者です(建築基準法第12条第1項)。ドローンを飛ばす側には、飛行の形態に応じて航空法上の許可・承認が要ります(航空法第132条の85・第132条の86)。つまり「ドローンを飛ばせること」と「定期報告の調査ができること」は別の資格の話で、両方が揃っている必要があります。

外壁調査は10年ごとに義務化されていますか?

「外壁調査だけが10年ごとに義務」という制度はありません。外壁の調査は特定建築物定期調査(建築基準法第12条第1項)の項目の1つで、定期報告そのものはおおむね6か月から3年までの間隔で特定行政庁が定めた時期に行います(建築基準法施行規則第5条第1項)。10年という数字は、タイル・石貼り・モルタル等で仕上げた外壁について、国土交通省が原則として竣工後10年ごとに全面的なテストハンマーによる打診等で行うものと説明していることから来ています。毎回の報告で壁を全面的に叩くわけではなく、10年目にあたる回で全面調査が上乗せされます。

赤外線外壁調査のデメリットは?

赤外線調査は、外壁の表面温度の差から浮きを推定する方法なので、温度差が出にくい条件では精度が落ちます。だからこそガイドラインは、撮影の条件(天候・時間帯・壁面の向き・撮影距離や角度)と、判定の方法、報告書に何を残すかまでを定めています。足場を組まない分だけ安く早く終わる、という理解だけで頼むと、条件が合わずに撮り直しになることがあります。依頼するときは、どの条件で撮るのか、条件が合わなかったときにどうするのかを先に確かめてください。

本記事は建築基準法・航空法・国土交通省公表資料(平成20年国土交通省告示第282号、令和4年3月「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」、平成30年5月23日付け国住防第1号、国土交通省「無人航空機の飛行許可・承認手続」。いずれも2026年8月20日確認)に基づく一般的な解説です。個別の建物への適用は、必ず特定行政庁・専門の調査業者にご確認ください。

30秒で無料相談する