防火戸・防火シャッターにも法定検査がある——2016年施行の告示が定める「10ジュール」「5センチ」の数値基準

公開: |運営: ubusuna works

エレベーターの定期検査なら、思い当たる管理者は多い。受水槽も、非常用照明も、点検の案内が業者から届く。ところが「天井裏に収まっているシャッター」と「普段は壁に沿って開いたままの重い扉」は、なぜか記憶から抜ける。動いていないから、壊れていることに気づかない。

この二つには、数値で合否が決まる法定検査がある。しかも、判定基準はかなり細かい。

12条検査の中に、防火設備だけ別枠がある

建築基準法12条は、一定の建物について定期的な調査・検査と特定行政庁への報告を義務づけている。建物本体(=壁や床、避難経路など)の調査、そして建築設備等の検査。防火戸や防火シャッターは、この「建築設備等の定期検査」のうち防火設備定期検査という枠で扱われる。

この枠が具体的な形を持ったのが、平成28年5月2日公布・同年6月1日施行の国土交通省告示第723号である。正式名称は長い。「防火設備の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」。対象として挙がるのは、防火戸、防火シャッター、耐火クロススクリーン(=火災時に降りてくる耐熱性の幕)、ドレンチャー(=水膜で炎を遮る散水設備)といった設備だ。

「防火設備は消防の担当ではないのか」と思われるかもしれない。消防設備点検も別に存在する。ただ、建物の防火区画(=火や煙を階や区画で食い止めるための仕切り)を成立させている扉やシャッターが、設計どおりに閉まるかどうかは、建築基準法側の宿題として残っている。

10ジュールと150ニュートン——挟まれ事故を数値で防ぐ

告示のなかで、現場が最も緊張するのは危害防止装置の項目だろう。防火戸が閉まるとき、そこに人がいたらどうなるか。この装置は、人や物に当たったときに扉の勢いを抑えるためのものだ。

作動確認での不合格ラインは、次のように書かれている。

防火戸の危害防止装置

「運動エネルギーが十ジュールを超えること又は閉鎖力が百五十ニュートンを超えること」——これに該当すれば不合格。どちらか一方でも超えればアウトという書き方になっている。

運動エネルギーは扉の重さと閉まる速さで決まる量、閉鎖力は当たったときに押してくる力である。重い防火戸が勢いよく閉まれば、当たった人は無傷では済まない。数値は、その「済まない」の境界を機械的に切っている。

シャッター側には別の数字がある。座板感知部——シャッターの下端に付いた、障害物を感知して止める部分だ。

防火シャッターの座板感知部

「座板感知部が作動してからの停止距離が五センチメートルを超えること」が不合格。感知してから5センチ以内に止まらなければならない。

5センチという数値の意味は、想像すればすぐわかる。感知したのに止まりきらないシャッターの下に、何があるか。

検査はストップウォッチで測る

方法も具体的に決まっている。各階の主要な防火戸・防火シャッター等について、閉鎖や作動にかかる時間をストップウォッチ等で測定する。目視で「ちゃんと閉まりました」では通らない。実際に動かし、時間を計り、判定基準と突き合わせる。

ここで管理者にとって現実的な話が一つある。全部を毎回動かすのか、という問題だ。

ここが大事

3年以内に実施した検査の記録がある場合は、その記録による確認で足りるとされている。つまり過去の検査記録を残しておけば、その分の実作動を省ける。記録を紛失した建物は、そのぶん現場作業が増える。

記録が資産になる仕組みである。逆に言えば、業者を切り替えたときに前回の検査結果表を引き継げていない建物は、毎回ゼロから作動させることになる。報告書は倉庫に積むものではなく、次の検査の入力データだと考えたほうがいい。

誰が検査できるのか

資格の話に入る。建築基準法施行規則第4条の20により、防火設備を含む建築設備等の検査を行えるのは、一級建築士・二級建築士のほか、国土交通大臣が定める「建築設備検査資格者」(=所定の登録講習を修了した者)等の資格を持つ者に限られる。

告示が施行された平成28年に、防火設備の検査を担う資格区分が新たに立ち上がった。それまで建物本体の調査や設備検査の枠内で扱われていた防火戸・防火シャッターが、専門の検査区分として分離した——この経緯を知っていると、発注時の確認ポイントが見えてくる。

資格の確認をしている発注

見積依頼の段階で、検査に当たる担当者の資格を書面で確認する。検査結果表に記名する者と、現場で作動させる者が一致しているかも見る。

していない発注

「設備点検一式」で契約し、防火設備が対象に入っているかも曖昧。報告後に特定行政庁から不備を指摘され、再検査費用が発生する。

見積書に「防火設備」の行があるか。まずそこを見てほしい。建築設備定期検査と防火設備定期検査は別の枠であり、一式見積の中でどちらか片方しか入っていない例がある。

発注前に手元で確かめられること

専門家を呼ぶ前に、管理者が自分でできる整理がある。

  1. 前回の防火設備定期検査の結果表を探す。日付を確認し、3年以内の記録があるかを把握する。
  2. 各階の防火戸・防火シャッターの位置を図面と現物で照合する。物置になって閉まらない場所、家具で塞がれた降下範囲を洗い出す。
  3. 見積依頼時に、検査に当たる者の資格区分と、危害防止装置・座板感知部の作動確認を実施するかを明記させる。

2番目は検査当日の手戻りに直結する。シャッターの降下位置に什器が置かれていれば、その場所は作動確認ができない。是正のうえ再訪となれば、費用も日程も膨らむ。

冒頭に戻る。動いていない設備は、壊れていても静かなままだ。10ジュール、150ニュートン、5センチ——告示が数字を書き込んだのは、静かなままの設備を放置しないためである。ただ、数値が守られているかどうかは、測ってみないと誰にもわからない。手元の結果表に、その数字が入っているだろうか。

出典

防火設備の検査に対応できる業者を探す際は、点検ビトの業者データベースから対応区分で絞り込んで比較できます。


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