マンションの消防設備点検で、留守の住戸をどう扱うか

公開: |運営: ubusuna works

この記事の結論

「不在」と「拒否」は分けて考えます。不在は日程の問題なので、予備日を1日設けるだけで実施率が9割を超えることが珍しくありません。拒否は日程では解けず、管理規約に定めがあっても強制的に部屋を開けることはできません。どちらも記録の残し方が後で効きます。

誰向けか: 住戸内の点検が進まなくて困っている、マンションの管理組合と管理会社

  1. 1回目に入れなかった住戸だけを集めた予備日を設けているか
  2. 不在と拒否を分けて記録しているか
  3. 入れなかった住戸への通知を、書面で残しているか

点検日の掲示を2週間前に出し、前日にもう一度チラシを入れる。 それでも当日、100戸のうち20戸は開かない。

管理会社に聞くと「実施率85%くらいが普通です」と言われる。 では残りの15%はどうなるのか。ここが曖昧なまま毎年が過ぎている建物は多い。

住戸の中に点検すべきものがある

マンションの消防用設備は、共用部だけで完結しない。 住戸内には煙感知器か熱感知器があり、階数や規模によってはスプリンクラーヘッドもある。

自動火災報知設備は、感知器が受信機まで信号を届けて初めて機能する。 共用部の受信機だけを見ても、住戸内の感知器が生きているかは分からない。 だから総合点検では住戸に立ち入る必要が出てくる。

義務を負っているのは、消防法17条の3の3にいう「関係者」——所有者・管理者・占有者である。 分譲マンションでは管理組合が管理者に当たり、賃貸では所有者と入居者の双方が関係者になりうる。 つまり「点検を受けさせる責任」は管理組合や貸主にあり、 「立ち会う責任」は住んでいる人の側にもある。

拒否と不在は、性質が違う

住戸に入れない理由は2つに分かれ、対応も変わる。

不在は日程の問題である。土日の設定、夕方の枠、予備日の追加で埋まる部分が大きい。 実務では、1回目の点検日で入れなかった住戸だけを集めて、 2〜3週間後に予備日を1日設ける方式が多い。これで実施率は9割を超えることが珍しくない。

拒否は日程では解けない。「部屋を見られたくない」「他人を入れたくない」という理由が中心で、 管理規約に立入りの定めがあっても、強制的に開けることはできない。

ここで効くのは、点検の目的を具体的に伝えることだと思う。 「法律で決まっているので」だけでは動かない住民も、 「あなたの部屋の感知器が働かないと、火災に気づくのが遅れるのはあなた自身です」という説明には反応する。 実際、点検で不良が見つかる感知器は、経年の建物では数%出る。

記録の残し方が、あとで効く

全戸に入れなかったとき、報告書をどう書くか。

点検結果報告書には、点検できなかった住戸を未実施として記載する。 実施できた戸数と未実施の戸数、未実施の理由(不在・拒否)を残す。 ここを空欄にしたり、実施したかのように書いたりすると、 消防法44条11号の「虚偽の報告」に当たりうる。罰則は30万円以下の罰金または拘留である。

出典: 消防法(昭和23年法律第186号)第44条 https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC1000000186

未実施を正直に書いた報告書を出すと、消防署から改善を求められることはある。 ただしそれは「次回はこう努力してください」という指導であって、いきなり罰則にはならない。 むしろ困るのは、実施率100%として報告し続けた建物で火災が起きた場合のほうだ。 感知器が作動しなかった住戸の記録が実際には存在しなかったことは、事後に必ず分かる。

管理組合の理事は数年で交代する。未実施の住戸番号と理由を年ごとに残しておくと、 同じ住戸が5年続けて開いていないことに気づける。 1年ごとの報告書だけを見ていると、この積み重ねが見えない。

実施率を上げるためにやられていること

告知の回数を増やす、というのが最初に出る案だが、掲示とチラシは3回目からほとんど効かない。 効いているのは、告知の内容を変えるほうである。

点検が何分で終わるかを書く。住戸内は5〜10分で済むことが多いのに、 「半日つぶれる」と思って避けている住民がいる。

立ち会いが要るのか要らないのかを書く。管理会社の担当者が同行する形なら、 鍵を預けて外出したままでよい建物もある。ここを書いていない告知が多い。

不在時の連絡先と、予備日の申し込み方法を書く。 「都合が悪い人は連絡してください」だけでは、誰も連絡しない。 予備日の日付を先に決めて掲示すると、そこに集まる。

業者を選ぶときに聞いておくこと

マンションの点検では、共用部だけを見る業者と、住戸内の日程調整まで含める業者で 見積もりの前提が違う。安い見積もりが「共用部のみ」で、 住戸内は戸数×単価で別請求という形もある。

分けて確認したいのは3つ。住戸内の点検が金額に含まれるか、予備日の設定が何回まで含まれるか、 未実施住戸の記録を報告書にどう残すか。 3つ目まで聞く管理組合は多くないが、聞かれた業者の答え方で、記録の扱いの丁寧さが分かる。

当サイトでは、各都道府県が公開する建設業許可業者名簿(消防施設工事業)をもとに 点検業者を掲載している。

消防設備点検業者の一覧 | 費用相場の早見表

住んでいる側から見た説明——住戸内で何を見られるのか、立ち会わないと何が起きるのか——は 消防設備点検に立ち会えない。部屋を見られたくない。そのとき何が起きるかにまとめている。 掲示や案内文を作るときに、そのまま渡せる形にしてある。

本記事は消防法および同施行規則に基づいて整理した。 個別の建物の扱いは、所轄の消防署と管理規約を確認してほしい。


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